この記事は
#音ゲーマー達の発信所 2枠目 というAdvent Calendarの記事の1つです。
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Advent Calendar参加記事ということで、まずはご挨拶から。
こんにちは。 るーく という名前でインターネット活動をしております。普段はインターネットをしながら、音楽ゲームはbeatmaniaIIDXのDPをメインに遊び、CosmicRaise.netというWebサイトでIIDXやSDVXの大会を開いたりしています。
本カレンダーに参加表明した段階では、今年の活動についてなんとなくまとめたり感想を綴ったりしようと思っていたのですが、「それを発信してどうなるんや」という思いから、少しテーマを変更させていただきました。
■"僕と"IIDXとTRANCEという音楽
いきなり自分語りで申し訳ないのですが、僕は"TRANCE(面倒なので今後は「トランス」と表記します)"と呼ばれる音楽が好きです。
トランス。音楽ゲームに精通している皆さんにとっては聞き慣れた単語であると思います。
さて、トランスと聞いて何を思い浮かべるでしょうか。bpmは140〜150前後。4つ打ち。シンセ。ピアノ。メロディアス。色々な要素を想起されることと思います。僕もです。
僕はIIDXというゲームを通してトランスという音楽に出会い、その魅力に触れ、沢山の楽曲を掘り、果てはDJとして本物のクラブのDJブースに立つまでに至りました。
その間、トランスという音楽は隆盛と衰退の流れを辿ってきました。シーンの流れはIIDXにも反映されており、収録曲のジャンル傾向を探ると面白いものが見えてきます。
そんな自分が今日皆さんにお伝えしたいことは以下の2つです。
・beatmaniaIIDXに収録された「TRANCE」についていくつかご紹介、また時代の潮流とともに辿るトランスの隆盛と衰退について考察
・IIDXを通して、クラブミュージックに触れるという楽しみ方
またおまけとして、「今年リリースされた個人的に好きな曲」をいくつか紹介していきます。
■そもそもトランスって何やねん
まずは困ったときのWikipedia。
>トランス(Trance)は、ハウスから派生した音楽の一種である。130から150くらいまでのBPM(テンポ)のリズムに加え、うねるような旋律を奏でるのが特徴。そのリズムやメロディは、さも脳内の感覚が幻覚や催眠を催す「トランス状態」に誘うかの様な様式からトランスと呼ばれている。
とあります。大体こんな感じだと思います。
ミドルテンポの4つ打ちで、聞いているとなんだかフワフワして気持ちいい、そんな音楽が「トランス」なのかな、と自分は感じています。
派生ジャンルによってはこの限りではありませんが、そこら辺はフィーリングでカバーしていただければ幸いです。
※あまりゴアやサイケデリックな方面には触れませんので、その点ご留意ください。
■beatmaniaIIDXとTRANCEの歴史
IIDXに初めて"TRANCE"とつくジャンルの楽曲が収録されたのはなんと1st style。
ただその曲であるところのSpecial energyのジャンルは"TRANCE TECHNO"なので、これは一旦除外したいと思います。
気を取り直して。
"TRANCE"の初収録はsubstream。"GENOM SCREAMS"と"THE EARTH LIGHT"です。
続けて2nd styleに"Indigo Vision"、3rd styleに"REINCARNATION"が収録。
この頃のトランスはサイバーチックながらもダークな雰囲気の曲が多かったようですね。
日本で「サイバートランス」の第1弾が発売されたのが2001年なので、この頃はトランスの1ジャンルとして確立されつつあったゴア、サイケデリックトランスに惹かれた人達が音楽ゲームでそれを表現しようとしたのかな、と考えられます。
そして4th style。ここで一気に流れが変わります。
"ABSOLUTE"、"Clione"、"LOVE WILL..."といった、いわゆる「メロディアス」なトランスたちが登場します。
"TRANCE"収録数は5。
特にABSOLUTEは今までのトランス、引いては音楽ゲームの楽曲の概念をぶち破る衝撃だったようで、当時は非常に人気があったと聞き及んでおります。
この頃何が起きていたか、というと、4th styleがリリースされる直前の1999年、「Out of the Blue / System F」がリリースされていたんですね。
この楽曲は「エピックトランス」や「サイバートランス」といった、日本において「これがトランス!!」と呼ばれる流れの大本になった曲と言っても過言ではありません。
現に、AKIRA YAMAOKA氏が"LOVE WILL..."のコメントで『これは「○○○-F」を超えている』と思いっきり名前を出して語っていることから、その影響力の強さが窺えます。
それほどの楽曲のリリースを迎えた後のIIDXですから、トランスに「派手さ」が生まれるのも当然の流れであったといえるでしょう。
続いて5th style。"TRANCE"収録数は7。
個人的にIIDXオリジナル曲で一番「トランスしてる」と思う"in my eyes"、また僕がL.E.D.氏の楽曲で一番好きな"THE SHINING POLARIS"が収録されているバージョンです。ボス曲的ポジションである"sync"もジャンルはトランスです。
(トランスファンからは、このsyncはdj TAKA氏がTrue Blue...のインタビューでも語られている"Carte Blanche"が元ネタであるとも言われています。)
更に5th styleは、
Deadlineの曲コメで当時のクラブアンセムコンピレーションについて触れられていたりするなど、当時リリースされていたトランスの影響が色濃く現れているバージョンとなっています。
6th style、7th styleの時期は完全にサイバートランス全盛期で、avexの協力もあって現場のトランスがゲームにバシバシ収録されています。
6thの収録数は7(DIVE除)、7thの収録数は6。
この頃のサイバートランスは、後のハードトランス、エナジェティックトランスに続いていくような、「派手さ」「カッコ良さ」が随所に散りばめられた楽曲たちが多いような印象を受けます。
5thの頃にあった「浮遊感」よりもむしろ「高揚感」が重視されてきているのを感じます。
一方で、Colorsに代表されるような、dj TAKA氏による「ゲームのためのトランス」の手法が確立されつつあるのもこの時期。
そのゲームに特化されたトランス特有のカッコ良さに胸を打たれた人達が、昨今の音ゲーにおける「トランス」の土壌を支えていることと思えてなりません。
8th styleになってもその波は止まりません。
"TRANCE"収録数は9。
現代までシーンの中心を引っ張る存在であるY&Co.氏が初登場したのもこのバージョンでした。
更にPINK PONG氏、SADA氏、Sota Fujimori氏を迎えながら、トランス全盛の流れは10th styleまで続きます。
(9thの収録数は6(Abyss除)、10thの収録数は10(ムートラ含))
IIDX RED(2004)からは、サウンドディレクター交代を受けたのか、はたまた流石に入れすぎかと思われたのか、それまでに比べてトランスは「数あるクラブミュージックの1ジャンル」というポジションを確立、1作に何曲かは収録される定番ジャンルとして腰を落ち着けていったように思えます。
それに呼応するように、
日本での「サイバートランス」ブームも陰りを見せ、いわゆる「アゲ系」トランスは2004年頃を境にじわじわとリリース規模が縮小していきました。
海外におけるトランスも「プロッグ」と呼ばれるどこか落ち着いた雰囲気のある楽曲が中心となっていきます。
僕はREDから本格的にIIDXを始め、トランスという音楽にじっくりと触れたため、10thまでにあったトランス全盛の空気を感じることなく粛々とトランスへの想いを募らせていくことになるのですが、その話は別の機会に取っておくことにします。
ゲームへのトランス収録数はそれぞれ
IIDX RED…6
HAPPY SKY…3
DistorteD…6
GOLD…6(CS移植のリグレット、INORI除)
DJ TROOPERS…3(DDRのFreeway shuffle、Shades of Grey除)
Empress…7
SIRIUS…4(CS移植のquell、The Story Begins、この時からかなり前に作られたSPARK(Remix)除)
という感じで推移しています。
Empressが少し多いのは、過去のサイバートランス全盛期だったころのアゲアゲな雰囲気を再現したかったのかな、と考えることもできますね。
※GOLDの"CROSSROAD"、DJ TROOPERSの"Shades of Grey"など、お前それトランスなのかよと言いたくなるBPMのトランスが登場していることも、ジャンルが確立した後っぽくて面白いな、と思います。
さて、ここで一旦SIRIUSに目を向けたいと思います。
SIRIUSには、"ELECTRO (POP)"、"TECHNO POP"合わせて6曲が収録されています。
SIRIUSが稼働した2009年の1年前である2008年は、日本ではなんとなくPerfumeが認知されてきて、capsuleが"MORE! MORE! MORE!"をリリースした年でもあります。
いわゆる「エレクトロ」「テクノポップ」が市民権を得てきた頃なんですね。
流行に乗り遅れまいとそれ系の楽曲を取り揃えてくるあたり、IIDXらしさを感じずにはいられませんね。
ちなみにトランスはかなり息を潜めてます。この頃は自分もエレクトロが好きでした。
続いてResortAnthem。トランス収録数は6(Broken、SSC除)。
サウンドディレクター交代により、かなりハードコアに寄ったバージョンとなりましたね。
収録されるトランスもその煽りを受け、かなりド派手でBPMの速いトランスが多かった印象を受けます。
実は海外ではこの頃トランスがかなり元気で、DJ Magというサイトが毎年行っているDJのランク付けの上位ほとんどがトランスのDJだったりしていたんですね。
ただ昔ほどトランスに「派手さ」はなく、聞かせる音楽にシフトしつつあったトランスはあまりゲーム向きではなくなってしまっていました。
そんな流れもあってか、IIDXにおいて当時のトランスが復権することは難しかったのではないかと思われます。
Lincleは、日本のトランス界の大御所であるYOJI氏やNhato氏が初登場を果たすなど、トランス好きにとってはかなり衝撃的なバージョンとなりました。
エナジェティックトランスの伝道師と言っても差し支えないであろう、kors k氏の別名義StripEとしてのアルバムがリリースされたのもこの年。
しかしトランス自体の収録数はあまり伸びず6曲。(bpm180超えのSACRED TRANCEやTEK-TRANCEは含めていいのか迷うので実質4)
テックダンスやダブステップの登場で、クラブミュージックの中でもやや地味なものとなったトランスは、過去に築いてきた地位をじわじわと追い出されつつありました。
そしてtricoroのトランス収録数は3(Time to Empress除)。
SPACY TRANCEはちょっと唸るところがありますが、個人的にはIn Heavenが大ヒットだったので、まだまだトランスは生きているな!という気持ちにさせられました。
世間ではEDMが流行し始め、トランスもその大きな渦に飲み込まれていくこととなります。
(トランスもEDMの一部である、という風潮は実際ある)
記憶に新しいSPADAは、稼働時こそ"Insane Techniques"のみだったトランスも最終的には3曲に。
ただ3曲収録されているとはいえ、自身が常日頃から聞くような「トランス」はそこになく…。
SPADAには「サイケデリックトランスはいつでもゲーム映えするなあ」、ということを再確認させていただきましたが、好きなゲームからトランスが消え行く寂しさが色濃く残るバージョンとなりました。
IIDX的には、かなりハードコアとの親和性が高まったバージョンであったと認識しています。
そしてその時がやってきましたPENDUAL。
稼働時点で”TRANCE"がジャンルにつく曲はまさかの0。
一トランスファンとしては非常に寂しいものがありますが、"時代の先端をいく楽曲群を収録"というIIDXのコンセプトに沿うにあたって、このEDM、ベースミュージック全盛を見逃すわけにはいかないのかな、と自分を説得しています。でも寂しい。
しかし、IIDXに入らなかったからといってトランスが死んだわけではありません。
サイケを外したトランスの潮流は「プロッグ」と「アップリフト」の2つが大きな流れであると僕は認識していて、ここ最近まではプロッグが一大勢力だったんですが、2014年は特にアップリフトの復権を感じる年になりました。
このままアップリフトが流行りに乗ってくれば、あるいは……?と、淡い期待を抱いています。
* * *
といった具合に、僕の好きなジャンルであるトランスを中心にIIDXの収録曲の流れを振り返ってみました。
こんなに流行り廃りがクッキリしたジャンル、なかなかないんじゃないでしょうか。
少しでも「へー、面白いな」と思っていただければ幸いです。
■IIDXとクラブミュージック
というように、数多のクラブミュージックの流行り廃りを体現してきたIIDX。
このゲームを通じて特定のジャンルに興味を持ち、探し、触れ、更には自分でそのジャンルを表現するようになった方々も沢山いらっしゃると思います。
自分もそのうちの一人で(トラックを作るところまでは行けなかったんですが)、トランスというジャンルを好きになるにあたって、IIDXには非常にお世話になりました。
IIDXがあったからこそ、トランスという音楽のことが好きになって、「大きな音でトランスを浴びたい!」と思うようになって、実際にクラブに足を運ぶようになって、「日本じゃあんまり自分の好きなトランスを箱で聞けないから、
自分でイベントやるわ!」という想いを抱くようになって、それを夢物語で終わらせないところまで、来ることができました。(もちろん、IIDXだけの力ではないですけれど……)
でもきっとIIDXが、「ジャンル」という道標をくれなかったら、今の自分はこうしてこんな記事を書いていないはず。
音楽ゲームを、ゲームだけで終わらせるのは、個人的には勿体無いと思います。
これだけ楽曲があれば、きっと好きなジャンルがある。その「ジャンル」というヒントを持って旅に出れば、そこには素敵な出会いが待っているはず。そんな楽しみ方ができるのも、IIDXの魅力の1つであると考えています。
最近はFUTURE BASSが気になるお年頃のるーくがお送りいたしました。
■おまけ
前述した「今年リリースされた個人的に好きな曲」をいくつか紹介します。続きからどうぞ。